2019年12月以降、ビザンツ関連の出版ラッシュとなったせいか、初めてビザンツに触れる・興味を持つ方が増えた気がします。
とは言え、2019-2020年に出た書籍の大半は、入門編というよりは玄人向けです。取っ掛かりに読むには、ちょっと難しいのも多いので、勝手にですが、取っ掛かりに読むならこれだ、というのを5冊挙げてみたいと思います。順番は「この順番で読んではいかがでしょうか」というお勧め順です。
なお、あくまでも趣味者が主観でお勧めしているだけですので、「※意見には個人差があります」。
井上浩一『生き残った帝国ビザンティン』
- 初刊版
- 著者:井上浩一
- 出版社:講談社(講談社現代新書)
- 出版年月日等:1990.12
- 大きさ、容量等:254p ; 18cm
- ISBN:406149032X
- 再刊版
- 著者:井上浩一
- 出版社:講談社(講談社学術文庫)
- 出版年月日等:2008.03
- 大きさ、容量等:275p ; 15cm
- ISBN:9784061598669
既に初刊から31年、研究が進展したこともあって一部の論点ではアップデートが必要な部分もありますが、いまだに日本におけるビザンツ(ビザンティン)史のファーストチョイスに推すべき一冊です。なにしろ圧倒的に読みやすい!わかりやすい!「『ローマ帝国』という看板・建前を堅持しつつ柔軟に体制を変えて生き延びていった帝国」という筋が一本通った記述なので、井上先生の筆力もあって、1000年という非常に長い期間の興亡を楽しく掴むことが出来ます。「ビザンツ(ビザンティン)って何?」と思った方はまず最初にこれを手に取りましょう。2020年からは、電子書籍版もリリースされています。
井上浩一・栗生沢猛夫 『世界の歴史 11 ビザンツとスラヴ』
- 初刊版
- 著者:井上浩一・栗生沢猛夫
- 出版社:中央公論社
- 出版年月日等:1998
- 大きさ、容量等:478p ; 20cm
- ISBN:4124034113
- 再刊版
- 著者:井上浩一・栗生沢猛夫
- 出版社:中央公論新社(中公文庫)
- 出版年月日等:2009
- 大きさ、容量等:573p ; 16cm
- ISBN:9784122051577
中公の世界の歴史シリーズの『ビザンツとスラヴ』の前半ビザンツ・パートは前掲の『生き残った帝国ビザンティン』の井上先生が書いておられます。前掲書ではあまり触れられなかったビザンツ中期の官制、マヌエル1世コムネノスの治世やニカイア帝国~パレオロゴス朝について述べられているため、『生き残った帝国ビザンティン』を読んだ後にこれを読むと、ちょうど補完関係になります。本著でも井上先生の筆力は冴えており、大変読み進めやすいと思います(一番最後の1453年5月29日のくだりは、記述内容自体は後に井上先生が訳されたジョナサン・ハリス『ビザンツ帝国の最期』では否定されてしまうのですが、最後の最後は余韻の残る名文です)。しかも後半(栗生沢先生パート)では、帝国にとって重要な周辺勢力であるスラヴ諸国の歴史も頭に入ってお買い得。
初刊版(写真右)の方が図像がカラーなのと、付録の井上・栗生沢・辻佐保子先生の鼎談が面白いので、可能であれば初版版をお勧めします。
根津由喜夫『ビザンツの国家と社会』
- 著者:根津由喜夫
- 出版社:山川出版社
- 出版年月日等:2008.08
- 大きさ、容量等:90p ; 21cm
- ISBN:9784634349421
山川の世界史リブレットシリーズの1冊。コムネノス朝期の専門家・金沢大学の根津先生の著書です。まず、全部で90ページ、税抜729円というお手軽さながら、内容がめちゃくちゃ濃いというお買い得な1冊です。井上先生の前掲2冊がやや時代を経るにしたがって内容的に古い部分も出てきているので、この書籍でアップデートをかけることが出来ます(そうはいっても、これも13年前の書籍なのですが)。また教科書に書かれている「皇帝教皇主義」という用語については、「そんなものはない」とバッサリ斬っています。
井上先生の書籍などと比べ、あまり話題に上らない書籍ですが、お手元に置くことをお勧めします。
中谷功治『ビザンツ帝国 : 千年の興亡と皇帝たち』
- 著者:中谷功治
- 出版社:中央公論新社(中公新書)
- 出版年月日等:2020.06
- 大きさ、容量等:304p ; 18cm
- ISBN:9784121025951
昨年中公新書から出て、重版もかかった話題書なので最初に手に取ってしまう方も多いかと思いますが、こういう事情もあるので、正直ファーストチョイスとしてはあまりお勧めできません。中谷先生ご自身もあとがきで「難解であると感じた人は井上浩一『生き残った帝国ビザンティン』あるいは根津由喜夫『ビザンツの国家と社会』・『図説ビザンツ帝国』を~」と書いておられるくらいですので、まず前掲3冊を読んでから、これを読むとビザンツ前期~中期については知識のアップグレードがさらに進むと思います。
ただし、これはビザンツ関連書籍出版ラッシュを振り返る(2019/12~)でも書いたように、コムネノス朝以降はやや残念な内容ですので、注意が必要です。
ジュディス・ヘリン『ビザンツ 驚くべき中世帝国』
- 著者:ジュディス・ヘリン
- 監訳:井上浩一
- 翻訳:足立広明・中谷功治・根津由喜夫・高田良太
- 出版社:白水社
- 出版年月日等:2010.10
- 大きさ、容量等:469, 28p ; 20cm
- ISBN:9784560080986
キングス・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学キングス・カレッジ) の名誉教授ジュディス・ヘリン氏の『Byzantium』の翻訳版です。同書は筆者がキングズ・カレッジの工事にやってきた職人たちから「ビザンツ史って何ですか?」と尋ねられ、それを説明したところからスタートしているため、初学者でもわかりやすく、年代別ではなくテーマ別に並べて「ビザンツとは何か」について書かれた本です。「ギリシアの火」「ヴェネツィアとフォーク」「アンナ・コムネナ」など、「それだけに1章割くんだ」という内容目白押し(アンナは1章割くだけの意義のある人物ですが)で、前掲4冊を読んだ後であれば、面白くより深くビザンツを理解できる1冊です。
追記:絶版状態になっていましたが、2021年に新装再刊されることになりました。
次点:根津由喜夫『図説ビザンツ帝国 刻印された千年の記憶』
- 著者:根津由喜夫
- 出版社:河出書房新社
- 出版年月日等:2011.02
- 大きさ、容量等:123p ; 22cm
- ISBN: 9784309761596
こちらと『ビザンツ 驚くべき中世帝国』どっちにしようか迷った1冊です。この本の特徴は、根津先生が自らの足で西はラヴェンナから東は旧アルメニア王国のアニに至るまでの旧ビザンツ領各地を巡り、自ら撮った写真でほとんど構成されていることです。タイトル通り図説・写真が豊富で、新型コロナや紛争などさまざまな事情で現地に行けない中、旧ビザンツ領へ思いを馳せるには最高の1冊だと思います。
コメント
[…] ビザンツ史 取っ掛かりの5冊 ~読書案内・入門編~でご紹介した、ジュディス・ヘリン『ビザンツ 驚くべき中世帝国』の日本語訳(白水社 井上浩一監訳)はビザンツ史の書籍が多 […]