4/30付の日本経済新聞朝刊のインタビュー記事(会員登録が必要です)に唐突にビザンツ皇帝が出てきました。内容は「コロナが突く国の統治」で、政治家や専門家に新型コロナウイルスへの対策を聞く記事なのですが、最後に日経のアンカーのコメントとして
「予期せぬことと予期したくないことが起こると予期せよ」。ビザンツ帝国皇帝が戦場で述べたとされる格言は危機管理の核心を突いている。経験が通用しない事態に対処するには想像力を目いっぱい働かせるしかないが、前例踏襲を得意とする組織にとっては困難な作業だ。
というのがありました。
さて、こんなことを言ったビザンツ皇帝って誰?という疑問が当然出てきます(一般の日経読者は、そもそもビザンツ帝国皇帝って何だ?から始まると思いますが)。
>「予期せぬことと予期したくないことが起こると予期せよ」。ビザンツ帝国皇帝が戦場で述べたとされる格言は危機管理の核心を突いている。
誰がどこで言ったんだっけ?これhttps://t.co/6K0mI6MaIA
— ビザンティン帝国同好会【SINCE 1999】 (@Byzantine_Club) April 29, 2020
これを投稿したところ、岡山大学の仲田先生が即座に反応してくださいまして、
これは気になるので調べますね
— Kosuke Nakada (@KosukeNakada) April 30, 2020
マウリキオスらしいです。『ストラテギコン』ですかね。ちょっと調べます。 https://t.co/Oa6cTi5ZDf
— Kosuke Nakada (@KosukeNakada) April 30, 2020
とりあえずストラテギコンの中では二回、「『予想してませんでした』と言ってはいけない』と言われている
— Kosuke Nakada (@KosukeNakada) April 30, 2020
ビザンツ(東ローマ)皇帝マウリキウス(ギリシャ語形マウリキオス 在位:582-602)は、『ストラテギコン』(Στρατηγικόν)という軍事書を書いているのですが、その一節ではないかと。
これのことだろうか。マウリキオス『ストラテギコン』(将軍たちに宛てた軍事書)の第8巻第2章の格言集の第63番:「真の将軍は危険に際して有り得そうなこと(
τὰ εἰκότα)だけでなく、あり得ないこと(τὰ παράδοξα)も勘案するものである」 https://t.co/mkxNoccnGO— Kosuke Nakada (@KosukeNakada) April 30, 2020
『ストラテギコン』をもとに作成された10世紀のレオン6世の『タクティカ』にも20章126番に多少改変されて採録されている:「用心深い将軍は危険に際して起こりそうなことによく対処するだけでなく、起こりそうもないことについても勘案してそれらについて先見(πρόνοια)を持っておくこと
— Kosuke Nakada (@KosukeNakada) April 30, 2020
ということで、最初にそう書いたのはマウリキウスで、戦場で言ったのではなく軍事書にそう書いたというのが、正解のようです。日経のアンカーは一体どこからその文言拾ってきたのかも気になるところですが。
未知の感染症の蔓延という、第二次大戦後の世界では体験したことがない状況下では、あり得ないことも勘案して考えなければいけない、というのは確かにそうかもしれませんね。
ビザンツ軍事書に学ぶ!戦略的思考の鍛え方!とかで一儲けしようかな…
— Kosuke Nakada (@KosukeNakada) April 30, 2020
仲田先生、ありがとうございました。
【補記】
あ、あと追加で、マウリキオスは同書内で二度、「将軍たるもの『予想していなかった』と言ってはならない」と述べています。こちらも関係あるかもしれません。なおこの言い回しは、古代の軍事書にもよく見られる表現みたいです。
— Kosuke Nakada (@KosukeNakada) May 1, 2020
ということで、マウリキウス以前から予想外のことにも対応する準備をしておけ、というのはあったようですね。
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